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内視鏡検査により診断した消化器型リンパ腫の犬の1例

亀戸動物総合病院 石川 朗

要約

慢性の下痢を呈していたマルチーズに上部および下部内視鏡検査を行い、病理組織検査および遺伝子検査にて消化器型リンパ腫(T-cell high grade)と診断した。多剤併用化学療法(UW-25を改変したもの、その後ロムスチンによるレスキュープロトコル)を行ったところ症状の改善が認められ、196日の生存期間を得た。

はじめに

リンパ腫は犬において最も一般的な悪性腫瘍の1つである。消化器型リンパ腫は多中心型に比べて一般的ではなく、犬のリンパ腫の約7%であり、また犬の消化管腫瘍の5-7%を占める。症状が非特異的な消化器症状のみであることが多く、治療法や予後が異なるため他の消化器疾患との鑑別が重要となる。今回、消化器型リンパ腫の診断に内視鏡が有用であった症例を経験したので報告する。

症例

症例は、マルチーズ、雌(避妊済)、10歳齢、2.42kg、対症療法に反応しない慢性の泥状から水様の下痢を主訴に来院した。初診時一般身体検査所見:重度の削痩が認められた。体温は38・8℃、体表リンパ節の腫脹はなく、聴診、腹部触診、直腸検査で異常は認められなかった。糞便検査所見:泥状に近い糞便が認められた。顕微鏡検査で特記すべき異常は認められなかった。糞便のリアルタイムPCR(RealPCRTM,IDEXX laboratories)では、C.perfringens enterotoxinAが陽性であった。

■血液検査所見:軽度の貧血(PCV36.6%)、BUN6mg/dl、T-Cho109mg/dlと軽度の低下、ALT113IU/L、ALP242IU/Lと軽度の上昇が認められた。血清トリプシン様免疫活性が44.5ngでわずかに増加していた。

■胸部および腹部X線検査所見:特記すべき異常は認められなかった。消化管造影検査においても特記すべき異常は認められなかった。

■腹部超音波検査所見:特記すべき異常は認められなかった。これまでの検査結果および症状より、消化管のび漫性疾患が強く疑われた。消化管内の観察と生検を行うため、内視鏡検査を実施した。

■内視鏡検査所見:食道、胃、十二指腸においては特記すべき異常は認められなかった。結腸、直腸において、粘膜の浮腫様の変化が認められ、部位により発赤が認められた(図1)。全ての部位において生検鈴子による生検を行った。なお、回結口より生検相子を挿入することにより回腸の生検も行った(図2)。
 
  図1 結腸の内視鏡検査所見     図2 回結口からの生検

■細胞診所見:回腸および結腸の生検組織のスタンプ標本による細胞診では、幼若なリンパ球が多数認められた。

■病理組織検査所見:回腸および結腸の生検組織の病理組織学検査では、低分化なリンパ球と思われる細胞がシート状に増殖しており、腸陰窩に浸潤性を示す部位も認められた。十二指腸では、粘膜固有層にリンパ球や形質細胞が中程度に浸潤しており、これらは絨毛先端においても確認された。胃では、粘膜固有層に線維組織の増生、リンパ球や形質細胞の浸潤が認められた。

■遺伝子検査所見:回腸および結腸の生検組織のリンパ球のクローナリティ解析を行ったところ、TCRγ鎖にクローナルな再構成が認められ、IgH鎖には認められなかったことから、Tリンパ球の腫瘍性増殖が疑われた。

診断

以上の検査所見より、回腸および結腸における消化器型リンパ腫(T-Cell high grade)と診断した。

治療および経過

治療はビンクリスチン、シクロフオスファミド、ドキソルビシン、Lアスパラギナーゼ、プレドニゾロンによる多剤併用化学療法(UW-25を改変したもの)を行った。あわせてメトロニダゾール、整腸剤を投与した。下痢は続いていたが、食欲などの全身状態の改善が認められた。しかし治療開始より第87病日に嘔吐、食欲不振、体重の低下が認められ全身状態が悪化した。そこで第91病日よりロムスチン、Lアスパラギナーゼ、プレドニゾロンによるレスキュープロトコルを実施したところ、再び症状の改善を得た。その後は良化と悪化を繰り返していたが、第189病日に再び全身状態が悪化した。そこで、第193病日にダカルバジンによる2度目のレスキュープロトコルを行ったが、改善は認められず第196病日に斃死した。

考察

慢性下痢の鑑別疾患には、多くの疾患があり、それらは治療法や予後が大きく異なるため、その鑑別は非常に重要であると思われる。今回の症例では、消化管のび漫性疾患が疑われ、原因を特定するために組織の生検が必要であると判断し、内視鏡検査による生検を実施した。内視鏡による腸粘膜の生検は、開腹手術による全層生検と比較して、採取される組織が限られ、組織の大きさが小さいことや、空回腸の大部分は実施できないことが欠点と思われる。しかし、粘膜面の変化を観察しながら組織を採取できることは非常に優れている点である。また、開腹手術より低侵襲で周術の管理が容易なこと、さらに診断後に速やかに糖質コルチコイドや抗がん剤による治療を実施できること、飼い主がうける心象の違いにより実施にあたり同意を得やすいことなど、その利点も多いと思われる。特に、今回の症例のように消化管に腫瘤性病変や通過障害が認められず、慢性経過により全身状態の悪化が認められるため侵襲を少なく実施する必要がある場合には、非常に有用であると思われた。今回のようにリンパ腫が疑われた場合に、採取した組織の一部で遺伝子検査を合わせておこなうことは、診断の精度を向上させるものと思われた。特に分化度の高いリンパ腫は内視鏡による生検組織での診断が難しいことがあるが、そのような場合に遺伝子検査は非常に有用であると思われる。遺伝子検査はホルマリン固定された組織では実施できないことから、内視鏡検査で生検を行う場合には遺伝子検査の可能性も考慮して別に組織を保存しておく必要があると思われる。また、今回は回結口より生検相子を挿入し回腸の粘膜の生検を行うことにより、リンパ腫の所見を得ることができた。回腸の生検は状況により難しい場合もあると思われるが、その診断的価値は高いと思われた。ロムスチンは一般的にT細胞性リンパ腫に有効性が高いといわれている[2〕。今回、レスキュー療法としてロムスチンを使用したところ、比較的良好な反応がみられた。消化器型リンパ腫は多中心型リンパ腫に比べて、化学療法の反応が悪いとされているが、ロムスチンは犬の消化器型リンパ腫の治療の選択肢となる可能性があると思われた。
(第32回動物臨床医学会年次大会で発表)

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